大阪大学名誉教授(ロシア演劇)/ シアター・コミュニケーション・ラボ大阪所長 /『俳優の仕事』翻訳者
ミハイル・チェーホフは世界の演技術のスタンダードを築いたモスクワ芸術座の創始者スタニスラフスキーの一番弟子でした。しかしスタニスラフスキー・システムといわれる「演技の文法」(スタニスラフスキー)は日本でもアメリカでもおおいに誤解されて伝わったという歴史があります。アメリカの最新研究でも「(スタニスラフスキー・システムは)西側では、心理的リアリズムの過度の強調と治療的自己表現をともなうメソッドとしてとらえられた」(Sharon M Carnicke “Stanislavsky in Focus “2009、209P)として心理や感情という捉えどころのない出発点を見直し、スタニスラフスキーの晩年の演技術である「身体的行動」を重視する傾向に変わってきています。しかし、これもまた外面のみにこだわると意識的な(あるいは論理的な)役へのアプローチに偏り、感情の真実のない形式的な演技に陥る可能性があります。それを埋めるべくスタニスラフスキー自身はヨーガの研究などを通して「心と身体」のバランスよい演技法を探求したのですが、ソ連という国の「唯物論的」世界観の政治的圧力でそれを表だって表明することができませんでした。
その「心と身体」を一つのものとして演技術に活かし、スタニスラフスキー・システムを発展させたのがミハイル・チェーホフだと言えます。最新の脳科学の第一人者アントニオ・ダマジオは「身体反応を含めた自らの状態を認知することにより、感情が生まれる」と述べていますが、感情から先に入らず、まず身体反応や体性感覚を生み出す心理的な身振りや想像の身体(外面)など(動物の模倣などもその変種)を通して感情に迫るミハイル・チェーホフの演技術はまさに晩年のスタニスラフスキーが求めてきたことの本質を継承していると言えるでしょう。だからこそアメリカやロシア・ヨーロッパで彼のテクニックが改めて注目を浴びているのだと思います。
頭の中だけで想像するのではなく、身体を動かすことを通して想像の世界を体感できるので、想像の世界の中で夢中になりやすい点がとても有効なテクニックだと思います。
MCをやってから、演技って難しい、苦しいと思ってたのが、演技って楽しい、自由だと思えるようになりました。
秋江さんは一人一人の感性を尊重しながら指導されているので、個々人の考えや創造性にブレーキをかけることなく、より魅力的な想像の世界に導いていってくれてるように感じます。
面白いと思ったのは、感情への働きかけ方でした。
身体の動き/意識、外界の働きかけで感情など内面どう影響されていくのか。また逆にイメージが身体など外界にどう影響をあたえるのか。。。
複雑に考えすぎてた部分がごくごくシンプルに、また動きやイメージを通して、自分自身をじっくり見つめ直す機会となりました。